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今から17、18年前、私は母校コニヤース大学の歴史学修士ジョージ・リンカーン・バー氏と最後に会った。 私たちは、生前に執筆を準備していた『自由の歴史』を書かずに亡くなった英国の歴史家アクトン卿について話していた。 その日、バー氏は多くの会話を交わしたが、その中で私が今でも忘れられない一文があった。 年を取れば取るほど、自由よりも寛容の方が大切だと感じるようになる」と。

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十七八年前我最後一次會見我的母校康耐兒大學的史學大師布爾先生George Lincoln Burr。我們談到英國史學大師阿克頓Lord Acton一生準備要著作一部《自由之史》沒有寫成他就死了。布爾先生那天談話很多有一句話我至今沒有忘記。他說「我年紀越大越感覺到容忍tolerance比自由更重要」。

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十七八年前我最后一次会见我的母校康耐儿大学的史学大师布尔先生George Lincoln Burr。我们谈到英国史学大师阿克顿Lord Acton一生准备要著作一部《自由之史》没有写成他就死了。布尔先生那天谈话很多有一句话我至今没有忘记。他说“我年纪越大越感觉到容忍tolerance比自由更重要”。

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わたしは厳寒を冒して、二千余里を隔て二十余年も別れていた故郷に帰って来た。時はもう冬の最中で故郷に近づくに従って天気は小闇くなり、身を切るような風が船室に吹き込んでびゅうびゅうと鳴る。苫の隙間から外を見ると、蒼黄いろい空の下にしめやかな荒村があちこちに横たわっていささかの活気もない。わたしはうら悲しき心の動きが抑え切れなくなった。

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我冒了嚴寒,回到相隔二千餘里,別了二十餘年的故鄉去。

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我冒了严寒,回到相隔二千馀里,别了二十馀年的故乡去。

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title: 羅生門
published: 1915-11-05
tags: ["芥川龍之介","きんだいぶんがく"]
lang: ja
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或日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待つてゐた。
廣い門の下には、この男の外に誰もゐない。唯、所々丹塗の剝げた、大きな圓柱に、蟋蟀が一匹とまつてゐる。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男の外にも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありさうなものである。それが、この男の外には誰もゐない。
何故かと云ふと、この二三年、京都には、地震とか辻風とか火事とか饑饉とか云ふ災がつゞいて起つた。そこで洛中のさびれ方は一通りでない。舊記によると、佛像や佛具を打碎いて、その丹がついたり、金銀の箔がついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪の料に賣つてゐたと云ふ事である。洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てゝ顧る者がなかつた。するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸が棲む。盜人が棲む。とうとうしまひには、引取り手のない死人を、この門へ持つて來て、棄てゝ行くと云ふ習慣さへ出來た。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも氣味を惡るがつて、この門の近所へは足ぶみをしない事になつてしまつたのである。
その代り又鴉が何處からか、たくさん集つて來た。晝間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて高い鴟尾のまはりを啼きながら、飛びまはつてゐる。殊に門の上の空が、夕燒けであかくなる時には、それが胡麻をまいたやうにはつきり見えた。鴉は、勿論、門の上にある死人の肉を、啄みに來るのである。――尤も今日は、刻限が遲いせいか、一羽も見えない。唯、所々、崩れかゝつた、さうしてその崩れ目に長い草のはへた石段の上に、鴉の糞が、點々と白くこびりついてゐるのが見える。下人は七段ある石段の一番上の段に洗ひざらした紺の襖の尻を据ゑて、右の頰に出來た、大きな面皰を氣にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めてゐるのである。
作者はさつき、「下人が雨やみを待つてゐた」と書いた。しかし、下人は、雨がやんでも格別どうしようと云ふ當てはない。ふだんなら、勿論、主人の家へ歸る可き筈である。所がその主人からは、四五日前に暇を出された。前にも書いたやうに、當時京都の町は一通りならず衰微してゐた。今この下人が、永年、使はれてゐた主人から、暇を出されたのも、この衰微の小さな餘波に外ならない。だから「下人が雨やみを待つてゐた」と云ふよりも、「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれてゐた」と云ふ方が、適當である。その上、今日の空模樣も少からずこの平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した。申の刻下りからふり出した雨は、未に上るけしきがない。そこで、下人は、何を措いても差當り明日の暮しをどうにかしようとして――云はゞどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考へをたどりながら、さつきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いてゐた。
雨は、羅生門をつゝんで、遠くから、ざあつと云ふ音をあつめて來る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍の先に、重たくうす暗い雲を支へてゐる。
どうにもならない事を、どうにかする爲には、手段を選んでゐる遑はない。選んでゐれば、築土の下か、道ばたの土の上で、饑死をするばかりである。さうして、この門の上へ持つて來て、犬のやうに棄てられてしまふばかりである。選ばないとすれば――下人の考へは、何度も同じ道を低徊した揚句に、やつとこの局所へ逢着した。しかしこの「すれば」は、何時までたつても、結局「すれば」であつた。下人は、手段を選ばないといふ事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつける爲に、當然、その後に來る可き「盜人になるより外に仕方がない」と云ふ事を、積極的に肯定する丈の、勇氣が出ずにゐたのである。
下人は、大きな嚏をして、それから、大儀さうに立上つた。夕冷えのする京都は、もう火桶が欲しい程の寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗の柱にとまつてゐた蟋蟀も、もうどこかへ行つてしまつた。
下人は、頸をちゞめながら、山吹の汗衫に重ねた、紺の襖の肩を高くして門のまはりを見まはした。雨風の患のない、人目にかゝる惧のない、一晚樂にねられさうな所があれば、そこでともかくも、夜を明かさうと思つたからである。すると、幸門の上の樓へ上る、幅の廣い、之も丹を塗つた梯子が眼についた。上なら、人がゐたにしても、どうせ死人ばかりである。下人は、そこで腰にさげた聖柄の太刀が鞘走らないやうに氣をつけながら、藁草履をはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。
それから、何分かの後である。羅生門の樓の上へ出る、幅の廣い梯子の中段に、一人の男が、猫のやうに身をちゞめて、息を殺しながら、上の容子を窺つてゐた。樓の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頰をぬらしてゐる。短い鬚の中に、赤く膿を持つた面皰のある頰である。下人は、始めから、この上にゐる者は、死人ばかりだと高を括つてゐた。それが、梯子を二三段上つて見ると、上では誰か火をとぼして、しかもその火を其處此處と動かしてゐるらしい。これは、その濁つた、黃いろい光が、隅々に蜘蛛の巢をかけた天井裏に、ゆれながら映つたので、すぐにそれと知れたのである。この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしてゐるからは、どうせ唯の者ではない。
下人は、守宮のやうに足音をぬすんで、やつと急な梯子を、一番上の段まで這ふやうにして上りつめた。さうして體を出來る丈、平にしながら、頸を出來る丈、前へ出して、恐る恐る、樓の內を覗いて見た。
見ると、樓の內には、噂に聞いた通り、幾つかの屍骸が、無造作に棄てゝあるが、火の光の及ぶ範圍が、思つたより狹いので、數は幾つともわからない。唯、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の屍骸と、着物を着た屍骸とがあると云ふ事である。勿論、中には女も男もまじつてゐるらしい。さうして、その屍骸は皆、それが、甞、生きてゐた人間だと云ふ事實さへ疑はれる程、土を捏ねて造つた人形のやうに、口を開いたり手を延ばしたりしてごろごろ床の上にころがつてゐた。しかも、肩とか胸とかの高くなつてゐる部分に、ぼんやりした火の光をうけて、低くなつてゐる部分の影を一層暗くしながら、永久に啞の如く默つていた。
下人は、それらの屍骸の腐爛した臭氣に思はず、鼻を掩つた。しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を掩ふ事を忘れてゐた。或る强い感情が、殆悉この男の嗅覺を奪つてしまつたからである。
下人の眼は、その時、はじめて、其屍骸の中に蹲つている人間を見た。檜肌色の着物を著た、背の低い、瘦せた、白髮頭の、猿のやうな老婆である。その老婆は、右の手に火をともした松の木片を持つて、その屍骸の一つの顏を覗きこむやうに眺めてゐた。髮の毛の長い所を見ると、多分女の屍骸であらう。
下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時は呼吸をするのさへ忘れてゐた。舊記の記者の語を借りれば、「頭身の毛も太る」やうに感じたのである。すると、老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めてゐた屍骸の首に兩手をかけると、丁度、猿の親が猿の子の虱をとるやうに、その長い髮の毛を一本づゝ拔きはじめた。髮は手に從つて拔けるらしい。
その髮の毛が、一本ずゝ拔けるのに從つて下人の心からは、恐怖が少しづつ消えて行つた。さうして、それと同時に、この老婆に對するはげしい憎惡が、少しづゝ動いて來た。――いや、この老婆に對すると云つては、語弊があるかも知れない。寧、あらゆる惡に對する反感が、一分每に强さを增して來たのである。この時、誰かがこの下人に、さつき門の下でこの男が考へてゐた、饑死をするか盜人になるかと云ふ問題を、改めて持出したら、恐らく下人は、何の未練もなく、饑死を選んだ事であらう。それほど、この男の惡を憎む心は、老婆の床に挿した松の木片のやうに、勢よく燃え上り出してゐたのである。
下人には、勿論、何故老婆が死人の髮の毛を拔くかわからなかつた。從つて、合理的には、それを善惡の何れに片づけてよいか知らなかつた。しかし下人にとつては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髮の毛を拔くと云ふ事が、それ丈で既に許す可らざる惡であつた。勿論、下人は、さつき迄自分が、盜人になる氣でゐた事なぞは、とうに忘れてゐるのである。
そこで、下人は、兩足に力を入れて、いきなり、梯子から上へ飛び上つた。さうして聖柄の太刀に手をかけながら、大股に老婆の前へ步みよつた。老婆が驚いたのは、云ふ迄もない。
老婆は、一目下人を見ると、まるで弩にでも彈かれたやうに、飛び上つた。
「おのれ、どこへ行く。」
下人は、老婆が屍骸につまづきながら、慌てふためいて逃げようとする行手を塞いで、こう罵つた。老婆は、それでも下人をつきのけて行かうとする。下人は又、それを行かすまいとして、押しもどす。二人は屍骸の中で、暫、無言のまゝ、つかみ合つた。しかし勝敗は、はじめから、わかつている。下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへ扭ぢ倒した。丁度、鷄の脚のやうな、骨と皮ばかりの腕である。
「何をしてゐた。さあ何をしてゐた。云へ。云はぬと、これだぞよ。」
下人は、老婆をつき放すと、いきなり、太刀の鞘を拂つて、白い鋼の色をその眼の前へつきつけた。けれども、老婆は默つてゐる。兩手をわなわなふるはせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球が眶の外へ出さうになる程、見開いて、啞のやうに執拗く默つてゐる。これを見ると、下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されてゐると云ふ事を意識した。さうして、この意識は、今まではげしく燃えてゐた憎惡の心を何時の間にか冷ましてしまつた。後に殘つたのは、唯、或仕事をして、それが圓滿に成就した時の、安らかな得意と滿足とがあるばかりである。そこで、下人は、老婆を見下しながら、少し聲を柔げてかう云つた。
「己は檢非違使の廳の役人などではない。今し方この門の下を通りかゝつた旅の者だ。だからお前に繩をかけて、どうしようと云ふやうな事はない。唯、今時分、この門の上で、何をして居たのだか、それを己に話しさへすればいいのだ。」
すると、老婆は、見開いてゐた眼を、一層大きくして、ぢつとその下人の顏を見守つた。眶の赤くなつた、肉食鳥のやうな、銳い眼で見たのである。それから、皺で、殆、鼻と一つになつた唇を、何か物でも嚙んでゐるやうに動かした。細い喉で、尖つた喉佛の動いてゐるのが見える。その時、その喉から、鴉の啼くやうな聲が、喘ぎ喘ぎ、下人の耳へ傳はつて來た。
「この髮を拔いてな、この女の髮を拔いてな、鬘にせうと思うたのぢや。」
下人は、老婆の答が存外、平凡なのに失望した。さうして失望すると同時に、又前の憎惡が、冷な侮蔑と一しよに、心の中へはいつて來た。すると、その氣色が、先方へも通じたのであらう。老婆は、片手に、まだ屍骸の頭から奪つた長い拔け毛を持つたなり、蟇のつぶやくやうな聲で、口ごもりながら、こんな事を云つた。
成程、死人の髮の毛を拔くと云ふ事は、惡い事かも知れぬ。しかし、かう云ふ死人の多くは、皆、その位な事を、されてもいゝ人間ばかりである。現に、自分が今、髮を拔いた女などは、蛇を四寸ばかりづゝに切つて干したのを、干魚だと云つて、太刀帶の陣へ賣りに行つた。疫病にかゝつて死ななかつたなら、今でも賣りに行つてゐたかもしれない。しかも、この女の賣る干魚は、味がよいと云ふので、太刀帶たちが、缺かさず菜料に買つてゐたのである。自分は、この女のした事が惡いとは思はない。しなければ、饑死をするので、仕方がなくした事だからである。だから、又今、自分のしてゐた事も惡い事とは思はない。これもやはりしなければ、饑死をするので、仕方がなくする事だからである。さうして、その仕方がない事を、よく知つてゐたこの女は、自分のする事を許してくれるのにちがひないと思ふからである。――老婆は、大體こんな意味の事を云つた。
下人は、太刀を鞘におさめて、その太刀の柄を左の手でおさへながら、冷然として、この話を聞いてゐた。勿論、右の手では、赤く頰に膿を持つた大きな面皰を氣にしながら、聞いてゐるのである。しかし、之を聞いてゐる中に、下人の心には、或勇氣が生まれて來た。それは、さつき、門の下でこの男に缺けてゐた勇氣である。さうして、又さつき、この門の上へ上つて、この老婆を捕へた時の勇氣とは、全然、反對な方向に動かうとする勇氣である。下人は、饑死をするか盜人になるかに迷はなかつたばかりではない。その時のこの男の心もちから云へば、饑死などと云ふ事は、殆、考へる事さへ出來ない程、意識の外に追ひ出されてゐた。
「きつと、そうか。」
老婆の話が完ると、下人は嘲るやうな聲で念を押した。さうして、一足前へ出ると、不意に、右の手を面皰から離して、老婆の襟上をつかみながら、かう云つた。
「では、己が引剝をしようと恨むまいな。己もさうしなければ、饑死をする體なのだ。」
下人は、すばやく、老婆の着物を剝ぎとつた。それから、足にしがみつかうとする老婆を、手荒く屍骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五步を數へるばかりである。下人は、剝ぎとつた檜肌色の着物をわきにかゝへて、またゝく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。
暫、死んだやうに倒れてゐた老婆が、屍骸の中から、その裸の體を起したのは、それから間もなくの事である。老婆は、つぶやくやうな、うめくやうな聲を立てながら、まだ燃えてゐる火の光をたよりに、梯子の口まで、這つて行つた。さうして、そこから、短い白髮を倒にして、門の下を覗きこんだ。外には、唯、黑洞々たる夜があるばかりである。
下人は、既に、雨を冐して、京都の町へ强盜を働きに急いでゐた。

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title: 羅生門
published: 1915-11-05
tags: ["芥川龍之介","きんだいぶんがく"]
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ある日の暮方の事である。一人の下人げにんが、羅生門らしょうもんの下で雨やみを待っていた。
広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗にぬりの剥はげた、大きな円柱まるばしらに、蟋蟀きりぎりすが一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路すざくおおじにある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠いちめがさや揉烏帽子もみえぼしが、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。
何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風つじかぜとか火事とか饑饉とか云う災わざわいがつづいて起った。そこで洛中らくちゅうのさびれ方は一通りではない。旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹にがついたり、金銀の箔はくがついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪たきぎの料しろに売っていたと云う事である。洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸こりが棲すむ。盗人ぬすびとが棲む。とうとうしまいには、引取り手のない死人を、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来た。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、この門の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。
その代りまた鴉からすがどこからか、たくさん集って来た。昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾しびのまわりを啼きながら、飛びまわっている。ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻ごまをまいたようにはっきり見えた。鴉は、勿論、門の上にある死人の肉を、啄ついばみに来るのである。――もっとも今日は、刻限こくげんが遅いせいか、一羽も見えない。ただ、所々、崩れかかった、そうしてその崩れ目に長い草のはえた石段の上に、鴉の糞ふんが、点々と白くこびりついているのが見える。下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖あおの尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰にきびを気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。
作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。所がその主人からは、四五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微すいびしていた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。その上、今日の空模様も少からず、この平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した。申さるの刻こく下さがりからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。そこで、下人は、何をおいても差当り明日あすの暮しをどうにかしようとして――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。
雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍いらかの先に、重たくうす暗い雲を支えている。
どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑いとまはない。選んでいれば、築土ついじの下か、道ばたの土の上で、饑死うえじにをするばかりである。そうして、この門の上へ持って来て、犬のように棄てられてしまうばかりである。選ばないとすれば――下人の考えは、何度も同じ道を低徊ていかいした揚句あげくに、やっとこの局所へ逢着ほうちゃくした。しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。下人は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「盗人ぬすびとになるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
下人は、大きな嚔くさめをして、それから、大儀たいぎそうに立上った。夕冷えのする京都は、もう火桶ひおけが欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗にぬりの柱にとまっていた蟋蟀きりぎりすも、もうどこかへ行ってしまった。
下人は、頸くびをちぢめながら、山吹やまぶきの汗袗かざみに重ねた、紺の襖あおの肩を高くして門のまわりを見まわした。雨風の患うれえのない、人目にかかる惧おそれのない、一晩楽にねられそうな所があれば、そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。すると、幸い門の上の楼へ上る、幅の広い、これも丹を塗った梯子はしごが眼についた。上なら、人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。下人はそこで、腰にさげた聖柄ひじりづかの太刀たちが鞘走さやばしらないように気をつけながら、藁草履わらぞうりをはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。
それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子ようすを窺っていた。楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。短い鬚の中に、赤く膿うみを持った面皰にきびのある頬である。下人は、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと高を括くくっていた。それが、梯子を二三段上って見ると、上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい。これは、その濁った、黄いろい光が、隅々に蜘蛛くもの巣をかけた天井裏に、揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。
下人は、守宮やもりのように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。そうして体を出来るだけ、平たいらにしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗のぞいて見た。
見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死骸しがいが、無造作に棄ててあるが、火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の死骸と、着物を着た死骸とがあるという事である。勿論、中には女も男もまじっているらしい。そうして、その死骸は皆、それが、かつて、生きていた人間だと云う事実さえ疑われるほど、土を捏こねて造った人形のように、口を開あいたり手を延ばしたりして、ごろごろ床の上にころがっていた。しかも、肩とか胸とかの高くなっている部分に、ぼんやりした火の光をうけて、低くなっている部分の影を一層暗くしながら、永久に唖おしの如く黙っていた。
下人げにんは、それらの死骸の腐爛ふらんした臭気に思わず、鼻を掩おおった。しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を掩う事を忘れていた。ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまったからだ。
下人の眼は、その時、はじめてその死骸の中に蹲うずくまっている人間を見た。檜皮色ひわだいろの着物を着た、背の低い、痩やせた、白髪頭しらがあたまの、猿のような老婆である。その老婆は、右の手に火をともした松の木片きぎれを持って、その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。髪の毛の長い所を見ると、多分女の死骸であろう。
下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時ざんじは呼吸いきをするのさえ忘れていた。旧記の記者の語を借りれば、「頭身とうしんの毛も太る」ように感じたのである。すると老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、丁度、猿の親が猿の子の虱しらみをとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。髪は手に従って抜けるらしい。
その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。――いや、この老婆に対すると云っては、語弊ごへいがあるかも知れない。むしろ、あらゆる悪に対する反感が、一分毎に強さを増して来たのである。この時、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた、饑死うえじにをするか盗人ぬすびとになるかと云う問題を、改めて持出したら、恐らく下人は、何の未練もなく、饑死を選んだ事であろう。それほど、この男の悪を憎む心は、老婆の床に挿した松の木片きぎれのように、勢いよく燃え上り出していたのである。
下人には、勿論、何故老婆が死人の髪の毛を抜くかわからなかった。従って、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった。しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くと云う事が、それだけで既に許すべからざる悪であった。勿論、下人は、さっきまで自分が、盗人になる気でいた事なぞは、とうに忘れていたのである。
そこで、下人は、両足に力を入れて、いきなり、梯子から上へ飛び上った。そうして聖柄ひじりづかの太刀に手をかけながら、大股に老婆の前へ歩みよった。老婆が驚いたのは云うまでもない。
老婆は、一目下人を見ると、まるで弩いしゆみにでも弾はじかれたように、飛び上った。
「おのれ、どこへ行く。」
下人は、老婆が死骸につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行手を塞ふさいで、こう罵ののしった。老婆は、それでも下人をつきのけて行こうとする。下人はまた、それを行かすまいとして、押しもどす。二人は死骸の中で、しばらく、無言のまま、つかみ合った。しかし勝敗は、はじめからわかっている。下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへ※(「てへん丑」、第4水準2-12-93)ねじ倒した。丁度、鶏にわとりの脚のような、骨と皮ばかりの腕である。
「何をしていた。云え。云わぬと、これだぞよ。」
下人は、老婆をつき放すと、いきなり、太刀の鞘さやを払って、白い鋼はがねの色をその眼の前へつきつけた。けれども、老婆は黙っている。両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球めだまが※(「目匡」、第3水準1-88-81)まぶたの外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗しゅうねく黙っている。これを見ると、下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。後あとに残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。そこで、下人は、老婆を見下しながら、少し声を柔らげてこう云った。
「己おれは検非違使けびいしの庁の役人などではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄なわをかけて、どうしようと云うような事はない。ただ、今時分この門の上で、何をして居たのだか、それを己に話しさえすればいいのだ。」
すると、老婆は、見開いていた眼を、一層大きくして、じっとその下人の顔を見守った。※(「目匡」、第3水準1-88-81)まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い眼で見たのである。それから、皺で、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でも噛んでいるように動かした。細い喉で、尖った喉仏のどぼとけの動いているのが見える。その時、その喉から、鴉からすの啼くような声が、喘あえぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。
「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、鬘かずらにしようと思うたのじゃ。」
下人は、老婆の答が存外、平凡なのに失望した。そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑ぶべつと一しょに、心の中へはいって来た。すると、その気色けしきが、先方へも通じたのであろう。老婆は、片手に、まだ死骸の頭から奪った長い抜け毛を持ったなり、蟇ひきのつぶやくような声で、口ごもりながら、こんな事を云った。
「成程な、死人しびとの髪の毛を抜くと云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。じゃが、ここにいる死人どもは、皆、そのくらいな事を、されてもいい人間ばかりだぞよ。現在、わしが今、髪を抜いた女などはな、蛇を四寸しすんばかりずつに切って干したのを、干魚ほしうおだと云うて、太刀帯たてわきの陣へ売りに往いんだわ。疫病えやみにかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいた事であろ。それもよ、この女の売る干魚は、味がよいと云うて、太刀帯どもが、欠かさず菜料さいりように買っていたそうな。わしは、この女のした事が悪いとは思うていぬ。せねば、饑死をするのじゃて、仕方がなくした事であろ。されば、今また、わしのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ。これとてもやはりせねば、饑死をするじゃて、仕方がなくする事じゃわいの。じゃて、その仕方がない事を、よく知っていたこの女は、大方わしのする事も大目に見てくれるであろ。」
老婆は、大体こんな意味の事を云った。
下人は、太刀を鞘さやにおさめて、その太刀の柄つかを左の手でおさえながら、冷然として、この話を聞いていた。勿論、右の手では、赤く頬に膿を持った大きな面皰にきびを気にしながら、聞いているのである。しかし、これを聞いている中に、下人の心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。下人は、饑死をするか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。その時のこの男の心もちから云えば、饑死などと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。
「きっと、そうか。」
老婆の話が完おわると、下人は嘲あざけるような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を面皰にきびから離して、老婆の襟上えりがみをつかみながら、噛みつくようにこう云った。
「では、己おれが引剥ひはぎをしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」
下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎとった檜皮色ひわだいろの着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。
しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくの事である。老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪しらがを倒さかさまにして、門の下を覗きこんだ。外には、ただ、黒洞々こくとうとうたる夜があるばかりである。
下人の行方ゆくえは、誰も知らない。

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title: 羅生門
published: 1915-11-05
tags: ["芥川龍之介","近代文學"]
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![这是图片的说明文字](https://image.radishzz.cc/picsmaller/06.webp)
是一日的傍晚的事。有一個家將,在羅生門下待著雨住。
寬廣的門底下,除了這男子以外,再沒有別的誰。只在朱漆剝落的大的圓柱上,停著一匹的蟋蟀。這羅生門,旣然在朱雀大路上,則這男子之外,總還該有兩三個避雨的市女笠和揉烏帽子[1]的。然而除了這男子,卻再沒有別的誰。
要說這緣故,就因為這二三年來,京都是接連的起了地動,旋風,大火,饑饉等等的災變,所以都中便格外的荒涼了。據舊記說,還將佛象和佛具打碎了,那些帶著丹漆,帶著金銀箔的木塊,都堆在路旁當柴賣。都中既是這情形,修理羅生門之類的事,自然再沒有人過問了。於是趁了這荒涼的好機會,狐狸來住,強盜來住;到後來,且至於生出將無主的死屍棄在這門上的習慣來。於是太陽一落,人們便都覺得陰氣,誰也不再在這門的附近走。
反而許多烏鴉,不知從那裡都聚向這地方。白晝一望,這鴉是不知多少匹的轉著圓圈,繞了最高的鴟吻,啼著飛舞。一到這門上的天空被夕照映得通紅的時候,這便彷彿撒著胡麻似的,尤其看得分明。不消說,這些烏鴉是因為要啄食那門上的死人的肉而來的了。 ——但在今日,或者因為時刻太晚了罷,卻一匹也沒有見。只見處處將要崩裂的,那裂縫中生出長的野草的石階上面,老鴉糞粘得點點的發白。家將將那洗舊的紅青襖子的臀部,坐在七級階的最上級,惱著那右頰上發出來的一顆大的面皰,惘惘然的看著雨下。
著者在先,已寫道「家將待著雨住」了。然而這家將便在雨住之後,卻也並沒有怎麼辦的方法。若在平時,自然是回到主人的家裡去。但從這主人,已經在四五日之前將他遣散了。上文也說過,那時的京都是非常之衰微了;現在這家將從那伺候多年的主人給他遣散,其實也只是這衰微的一個小小的餘波。所以與其說「家將待著雨住」,還不如說「遇雨的家將,沒有可去的地方,正在無法可想」,倒是愜當的。況且今日的天色,很影響到這平安朝[2]家將的Sentimentalisme上去。從申未下開首的雨到酉時還沒有停止模樣。這時候家將就首先想著那明天的活計怎麼辦——說起來便是抱著對於沒法辦的事要想怎麼辦的一種毫無把握的思想一面又並不聽而自聽著那從先前便打著朱雀大路的雨聲。
雨是圍住了羅生門,從遠處灑灑的打將過來。黃昏使天空低下了;仰面一望,門頂在斜出的飛甍上,支住了昏沉的雲物。
因為要將沒法辦的事來怎麼辦,便再沒有工夫來揀手段了。一揀,便只是餓死在空地裡或道旁;而且便只是搬到這門裡來,棄掉了像一隻狗。但不揀,則——家將的思想,在同一的路線上徘徊了許多回,才終於到了這處所。然而這一個「則」,雖然經過了許多時,結局總還是一個「則」。家將一面固然肯定了不揀手段這一節了,但對於因為要這「則」有著落,自然而然的接上來的「只能做強盜」這一節,卻還沒有足以積極的肯定的勇氣。
家將打一個大噴嚏,於是懶懶的站了起來。晚涼的京都,已經是令人想要火爐一般寒冷。風和黃昏,毫無顧忌的吹進了門柱間。停在朱漆柱上的蟋蟀,早已跑到不知那裡去了。
家將縮著頸子,高聳了襯著淡黃小衫的紅青襖的肩頭,向門的周圍看。因為倘尋得一片地,可以沒有風雨之患,沒有露見之慮,能夠安安穩穩的睡覺一夜的,便想在此度夜的了。這其間,幸而看見了一道通到門樓上的,寬闊的,也是朱漆的梯子。倘在這上面,即使有人,也不過全是死人罷了。家將便留心著橫在腰間的素柄刀,免得他出了鞘,抬起登著草鞋的腳來,踏上這梯子的最下的第一級去。
於是是幾分時以後的事了。在通到羅生門的樓上的,寬闊的梯子的中段,一個男子,貓似的縮了身體,屏了息,窺探著樓上的情形。從樓上漏下來的火光,微微的照著這男人的右頰,就是那短鬚十間生了一顆紅腫化膿的面皰的頰。家將當初想,在上面的只不過是死人;但走上二三級,卻看見有誰明著火,而那火又是這邊那邊的動彈。這只要看那昏濁的黃色的光,映在角角落落都結滿了蛛網的藻井上搖動,也就可以明白了。在這陰雨的夜間,在這羅生門的樓上,能明著火的,總不是一個尋常的人。
家將是蜥蜴似的忍了足音,爬一般的才到了這峻急的梯子的最上的第一級。竭力的帖伏了身子,竭力的伸長了頸子,望到樓裡面去。
待看時,樓裡面便正如所聞,胡亂的拋著幾個死屍,但是火光所到的範圍,卻此預想的尤其狹,辨不出那些的數目來。只在朦朧中,知道是有赤體的死屍和穿衣服的死屍;又自然是男的女的也都有。而且那些死屍,或者張著嘴或者伸著手,縱橫在樓板上的情形,幾乎令人要疑心到他也曾為人的事實。加之只是肩膀胸脯之類的高起的部分,受著淡淡的光,而低下的部分的影子卻更加暗黑,啞似的永久的默著。
家將逢到這些死屍的腐爛的臭氣,不由的掩了鼻子。然而那手,在其次的一剎那間,便忘卻了掩住鼻子的事了。因為有一種強烈的感情,幾乎全奪去了這人的嗅覺了。
那家將的眼睛,在這時候,才看見蹲在死屍中間的一個人。是穿一件檜皮色衣服的,又短又瘦的,白頭髮的,猴子似的老嫗。這老嫗,右手拿著點火的松明,注視著死屍之一的臉。從頭髮的長短看來,那死屍大概是女的。
家將被六分的恐怖和四分的好奇心所動了,幾於暫時忘卻了呼吸。倘借了舊記的記者的話來說,便是覺得「毛戴」起來了。隨後那老嫗,將鬆明插在樓板的縫中,向先前看定的死屍伸下手去,正如母猴給猴兒捉蝨一般,一根一根的便拔那長頭髮。頭髮也似乎隨手的拔了下來。
那頭髮一根一根的拔了下來時,家將的心裡,恐怖也一點一點的消去了。而且同時,對於這老嫗的憎惡,也漸漸的發動了。 ——不,說是「對於這老嫗」,或者有些語病;倒不如說,對於一切惡的反感,一點一點的強盛起來了。這時候,倘有人向了這家將,提出這人先前在門下面所想的「餓死呢還是做強盜呢」這一個問題來,大約這家將是,便毫無留戀,揀了餓死的了。這人的惡惡之心,宛如那老嫗插在樓板縫中的松明一般,蓬蓬勃勃的燃燒上來,已經到如此。
那老嫗為什麼拔死人的頭髮,在家將自然是不知道的。所以照「合理的」的說,是善是惡,也還沒有知道應該屬於那—面。但由家將看來,在這陰雨的夜間,在這羅生門的上面,拔取死人的頭髮,即此便已經是無可寬恕的惡。不消說,自己先前想做強盜的事,在家將自然也早經忘卻了。
於是乎家將兩腳一蹬,突然從梯子直躥上去,而且手按素柄刀,大踏步走到老嫗的面前。老嫗的吃驚,是無須說得的。
老嫗一瞥見家將,簡直像被弩機彈著似的,直跳起來。
「呔,那裡走!」
家將攔住了那老嫗絆著死屍踉蹌想走的逃路,這樣罵。老嫗沖開了家將,還想奔逃。家將卻又不放伊走,重複推了回來了。暫時之間,默然的叉著。然而勝負之數,是早就知道了的。家將終於抓住了老嫗的臂膊,硬將伊捻倒了。是只剩著皮骨,宛然雞腳一般的臂膊。
「在做什麼?說來!不說,便這樣!」
家將放下老嫗,忽然拔刀出了鞘,將雪白的鋼色,塞在伊的眼前。但老嫗不開口。兩手發了抖,呼吸也艱難了,睜圓了兩眼,眼珠幾乎要飛出窠外來,啞似的執拗的不開口。一看這情狀,家將才分明的意識到這老嫗的生死,已經全屬於自己的意志的支配。而且這意志,將先前那熾烈的憎惡之心,又早在什麼時候冷卻了。剩了下來的,只是成就了一件事業時候的,安穩的得意和滿足。於是家將俯視著老嫗,略略放軟了聲音說:
「我並不是檢非違使[3]的衙門裡的公吏,只是剛才走過這門下面的一個旅人。所以並不要鎖你去有什麼事。只要在這時候,在這門上,做著什麼的事,說給我就是。」
老嫗更張大了圓睜的眼睛,看住了家將的臉,這看的是紅眼眶,鷙鳥一般銳利的眼睛。於是那打皺的,幾乎和鼻子連成一氣的嘴唇,嚼著什麼似的動起來了。頸子很細,能看兄尖的喉節的動彈。這時從這喉嚨裡,發出鴉叫似的聲音,喘吁籲的傳到家將的耳朵裡:
「拔了這頭髮呵,拔了這頭髮呵,去做假髮的。」
家將一聽得這老嫗的答話是意外的平常,不覺失瞭望;而且一失望,那先前的憎惡和冷冷的侮蔑,便同時又進了心中了。他的氣色,大約伊也悟得。老嫗一手仍捏著從死屍拔下來的長頭髮,發出蝦蟆叫一樣聲音,格格的,說了這些話:
「自然的,拔死人的頭髮,真不知道是怎樣的惡事呵。只是,在這裡的這些死人,都是,便給這麼辦,也是活該的人們。現在,我剛才,拔著那頭髮的女人,是將蛇切成四寸長,曬乾了,說是乾魚,到帶刀[4]的營裡去出賣的。倘使沒有遭瘟,現在怕還賣去罷。這人也是的,這女人去賣的干魚,說是口味好,帶刀們當作缺不得的菜料買。我呢,並不覺得這女人做的事是惡的。不做,便要餓死,沒法子者做的罷。那就,我做的事,也不覺得是惡事。這也是,不做便要餓死,沒法子才做的呵。很明白這沒法子的事的這女人,料來也應該寬恕我的。」
老嫗大概說了些這樣意思的事。
家將收刀進了鞘,左手按著刀柄,冷然的聽著這些話;至於右手,自然是按著那通紅的在頰上化了膿的大顆的面皰。然而正聽著,家將的心裡卻生出一種勇氣來了。
這正是這人先前在門下面所缺的勇氣。而且和先前跳到這門上,來捉老嫗的勇氣,又完全是向反對方面發動的勇氣了。家將對於或餓死或做強盜的事,不但早無問題;從這時候的這人的心情說,所謂餓死之類的事,已經逐出在意識之外,幾乎是不能想到的了。
「的確,這樣麼?」
老嫗說完話,家將用了嘲弄似的聲音,覆核的說。於是前進一步,右手突然離開那面皰,捉住老嫗的前胸,咬牙的說道:
「那麼,我便是強剝,也未必怨恨罷。我也是不這麼做,便要餓死的了。」
家將迅速的剝下這老嫗的衣服來;而將挽住了他的腳的這老嫗,猛烈的踢倒在死屍上。到樓梯口,不過是五步。家將挾著剝下來的檜皮色的衣服,一瞬間便下了峻急的梯子向昏夜裡去了。
暫時氣絕似的老嫗,從死屍間掙起伊裸露的身子來,是相去不久的事。伊吐出嘮叨似的呻吟似的聲音,借了還在燃燒的火光,爬到樓梯口邊去。而且從這裡倒掛了短的白髮,窺向門下面。那外邊,只有黑洞洞的昏夜。
家將的蹤跡,並沒有知道的人。

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title: 羅生門
published: 1915-11-05
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ある日の暮方の事である。一人の下人げにんが、羅生門らしょうもんの下で雨やみを待っていた。
広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗にぬりの剥はげた、大きな円柱まるばしらに、蟋蟀きりぎりすが一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路すざくおおじにある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠いちめがさや揉烏帽子もみえぼしが、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。
何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風つじかぜとか火事とか饑饉とか云う災わざわいがつづいて起った。そこで洛中らくちゅうのさびれ方は一通りではない。旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹にがついたり、金銀の箔はくがついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪たきぎの料しろに売っていたと云う事である。洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸こりが棲すむ。盗人ぬすびとが棲む。とうとうしまいには、引取り手のない死人を、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来た。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、この門の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。
その代りまた鴉からすがどこからか、たくさん集って来た。昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾しびのまわりを啼きながら、飛びまわっている。ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻ごまをまいたようにはっきり見えた。鴉は、勿論、門の上にある死人の肉を、啄ついばみに来るのである。――もっとも今日は、刻限こくげんが遅いせいか、一羽も見えない。ただ、所々、崩れかかった、そうしてその崩れ目に長い草のはえた石段の上に、鴉の糞ふんが、点々と白くこびりついているのが見える。下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖あおの尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰にきびを気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。
作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。所がその主人からは、四五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微すいびしていた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。その上、今日の空模様も少からず、この平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した。申さるの刻こく下さがりからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。そこで、下人は、何をおいても差当り明日あすの暮しをどうにかしようとして――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。
雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍いらかの先に、重たくうす暗い雲を支えている。
どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑いとまはない。選んでいれば、築土ついじの下か、道ばたの土の上で、饑死うえじにをするばかりである。そうして、この門の上へ持って来て、犬のように棄てられてしまうばかりである。選ばないとすれば――下人の考えは、何度も同じ道を低徊ていかいした揚句あげくに、やっとこの局所へ逢着ほうちゃくした。しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。下人は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「盗人ぬすびとになるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
下人は、大きな嚔くさめをして、それから、大儀たいぎそうに立上った。夕冷えのする京都は、もう火桶ひおけが欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗にぬりの柱にとまっていた蟋蟀きりぎりすも、もうどこかへ行ってしまった。
下人は、頸くびをちぢめながら、山吹やまぶきの汗袗かざみに重ねた、紺の襖あおの肩を高くして門のまわりを見まわした。雨風の患うれえのない、人目にかかる惧おそれのない、一晩楽にねられそうな所があれば、そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。すると、幸い門の上の楼へ上る、幅の広い、これも丹を塗った梯子はしごが眼についた。上なら、人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。下人はそこで、腰にさげた聖柄ひじりづかの太刀たちが鞘走さやばしらないように気をつけながら、藁草履わらぞうりをはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。
それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子ようすを窺っていた。楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。短い鬚の中に、赤く膿うみを持った面皰にきびのある頬である。下人は、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと高を括くくっていた。それが、梯子を二三段上って見ると、上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい。これは、その濁った、黄いろい光が、隅々に蜘蛛くもの巣をかけた天井裏に、揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。
下人は、守宮やもりのように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。そうして体を出来るだけ、平たいらにしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗のぞいて見た。
見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死骸しがいが、無造作に棄ててあるが、火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の死骸と、着物を着た死骸とがあるという事である。勿論、中には女も男もまじっているらしい。そうして、その死骸は皆、それが、かつて、生きていた人間だと云う事実さえ疑われるほど、土を捏こねて造った人形のように、口を開あいたり手を延ばしたりして、ごろごろ床の上にころがっていた。しかも、肩とか胸とかの高くなっている部分に、ぼんやりした火の光をうけて、低くなっている部分の影を一層暗くしながら、永久に唖おしの如く黙っていた。
下人げにんは、それらの死骸の腐爛ふらんした臭気に思わず、鼻を掩おおった。しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を掩う事を忘れていた。ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまったからだ。
下人の眼は、その時、はじめてその死骸の中に蹲うずくまっている人間を見た。檜皮色ひわだいろの着物を着た、背の低い、痩やせた、白髪頭しらがあたまの、猿のような老婆である。その老婆は、右の手に火をともした松の木片きぎれを持って、その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。髪の毛の長い所を見ると、多分女の死骸であろう。
下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時ざんじは呼吸いきをするのさえ忘れていた。旧記の記者の語を借りれば、「頭身とうしんの毛も太る」ように感じたのである。すると老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、丁度、猿の親が猿の子の虱しらみをとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。髪は手に従って抜けるらしい。
その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。――いや、この老婆に対すると云っては、語弊ごへいがあるかも知れない。むしろ、あらゆる悪に対する反感が、一分毎に強さを増して来たのである。この時、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた、饑死うえじにをするか盗人ぬすびとになるかと云う問題を、改めて持出したら、恐らく下人は、何の未練もなく、饑死を選んだ事であろう。それほど、この男の悪を憎む心は、老婆の床に挿した松の木片きぎれのように、勢いよく燃え上り出していたのである。
下人には、勿論、何故老婆が死人の髪の毛を抜くかわからなかった。従って、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった。しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くと云う事が、それだけで既に許すべからざる悪であった。勿論、下人は、さっきまで自分が、盗人になる気でいた事なぞは、とうに忘れていたのである。
そこで、下人は、両足に力を入れて、いきなり、梯子から上へ飛び上った。そうして聖柄ひじりづかの太刀に手をかけながら、大股に老婆の前へ歩みよった。老婆が驚いたのは云うまでもない。
老婆は、一目下人を見ると、まるで弩いしゆみにでも弾はじかれたように、飛び上った。
「おのれ、どこへ行く。」
下人は、老婆が死骸につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行手を塞ふさいで、こう罵ののしった。老婆は、それでも下人をつきのけて行こうとする。下人はまた、それを行かすまいとして、押しもどす。二人は死骸の中で、しばらく、無言のまま、つかみ合った。しかし勝敗は、はじめからわかっている。下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへ※(「てへん丑」、第4水準2-12-93)ねじ倒した。丁度、鶏にわとりの脚のような、骨と皮ばかりの腕である。
「何をしていた。云え。云わぬと、これだぞよ。」
下人は、老婆をつき放すと、いきなり、太刀の鞘さやを払って、白い鋼はがねの色をその眼の前へつきつけた。けれども、老婆は黙っている。両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球めだまが※(「目匡」、第3水準1-88-81)まぶたの外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗しゅうねく黙っている。これを見ると、下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。後あとに残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。そこで、下人は、老婆を見下しながら、少し声を柔らげてこう云った。
「己おれは検非違使けびいしの庁の役人などではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄なわをかけて、どうしようと云うような事はない。ただ、今時分この門の上で、何をして居たのだか、それを己に話しさえすればいいのだ。」
すると、老婆は、見開いていた眼を、一層大きくして、じっとその下人の顔を見守った。※(「目匡」、第3水準1-88-81)まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い眼で見たのである。それから、皺で、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でも噛んでいるように動かした。細い喉で、尖った喉仏のどぼとけの動いているのが見える。その時、その喉から、鴉からすの啼くような声が、喘あえぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。
「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、鬘かずらにしようと思うたのじゃ。」
下人は、老婆の答が存外、平凡なのに失望した。そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑ぶべつと一しょに、心の中へはいって来た。すると、その気色けしきが、先方へも通じたのであろう。老婆は、片手に、まだ死骸の頭から奪った長い抜け毛を持ったなり、蟇ひきのつぶやくような声で、口ごもりながら、こんな事を云った。
「成程な、死人しびとの髪の毛を抜くと云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。じゃが、ここにいる死人どもは、皆、そのくらいな事を、されてもいい人間ばかりだぞよ。現在、わしが今、髪を抜いた女などはな、蛇を四寸しすんばかりずつに切って干したのを、干魚ほしうおだと云うて、太刀帯たてわきの陣へ売りに往いんだわ。疫病えやみにかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいた事であろ。それもよ、この女の売る干魚は、味がよいと云うて、太刀帯どもが、欠かさず菜料さいりように買っていたそうな。わしは、この女のした事が悪いとは思うていぬ。せねば、饑死をするのじゃて、仕方がなくした事であろ。されば、今また、わしのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ。これとてもやはりせねば、饑死をするじゃて、仕方がなくする事じゃわいの。じゃて、その仕方がない事を、よく知っていたこの女は、大方わしのする事も大目に見てくれるであろ。」
老婆は、大体こんな意味の事を云った。
下人は、太刀を鞘さやにおさめて、その太刀の柄つかを左の手でおさえながら、冷然として、この話を聞いていた。勿論、右の手では、赤く頬に膿を持った大きな面皰にきびを気にしながら、聞いているのである。しかし、これを聞いている中に、下人の心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。下人は、饑死をするか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。その時のこの男の心もちから云えば、饑死などと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。
「きっと、そうか。」
老婆の話が完おわると、下人は嘲あざけるような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を面皰にきびから離して、老婆の襟上えりがみをつかみながら、噛みつくようにこう云った。
「では、己おれが引剥ひはぎをしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」
下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎとった檜皮色ひわだいろの着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。
しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくの事である。老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪しらがを倒さかさまにして、門の下を覗きこんだ。外には、ただ、黒洞々こくとうとうたる夜があるばかりである。
下人の行方ゆくえは、誰も知らない。

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title: 罗生门
published: 1971-03-05
tags: ["芥川龙之介","近代文学"]
lang: zh
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![这是图片的说明文字](https://image.radishzz.cc/picsmaller/06.webp)
是一日的傍晚的事。有一个家将,在罗生门下待著雨住。
宽广的门底下,除了这男子以外,再没有别的谁。只在朱漆剥落的大的圆柱上,停著一匹的蟋蟀。这罗生门,既然在朱雀大路上,则这男子之外,总还该有两三个避雨的市女笠和揉乌帽子[1]的。然而除了这男子,却再没有别的谁。
要说这缘故,就因为这二三年来,京都是接连的起了地动,旋风,大火,饥馑等等的灾变,所以都中便格外的荒凉了。据旧记说,还将佛象和佛具打碎了,那些带著丹漆,带著金银箔的木块,都堆在路旁当柴卖。都中既是这情形,修理罗生门之类的事,自然再没有人过问了。于是趁了这荒凉的好机会,狐狸来住,强盗来住;到后来,且至于生出将无主的死尸弃在这门上的习惯来。于是太阳一落,人们便都觉得阴气,谁也不再在这门的附近走。
反而许多乌鸦,不知从那里都聚向这地方。白昼一望,这鸦是不知多少匹的转著圆圈,绕了最高的鸱吻,啼著飞舞。一到这门上的天空被夕照映得通红的时候,这便仿佛撒著胡麻似的,尤其看得分明。不消说,这些乌鸦是因为要啄食那门上的死人的肉而来的了。 ——但在今日,或者因为时刻太晚了罢,却一匹也没有见。只见处处将要崩裂的,那裂缝中生出长的野草的石阶上面,老鸦粪粘得点点的发白。家将将那洗旧的红青袄子的臀部,坐在七级阶的最上级,恼著那右颊上发出来的一颗大的面疱,惘惘然的看著雨下。
著者在先,已写道“家将待著雨住”了。然而这家将便在雨住之后,却也并没有怎么办的方法。若在平时,自然是回到主人的家里去。但从这主人,已经在四五日之前将他遣散了。上文也说过,那时的京都是非常之衰微了;现在这家将从那伺候多年的主人给他遣散,其实也只是这衰微的一个小小的馀波。所以与其说“家将待著雨住”,还不如说“遇雨的家将,没有可去的地方,正在无法可想”,倒是惬当的。况且今日的天色,很影响到这平安朝[2]家将的Sentimentalisme上去。从申未下开首的雨到酉时还没有停止模样。这时候家将就首先想著那明天的活计怎么办——说起来便是抱著对于没法办的事要想怎么办的一种毫无把握的思想一面又并不听而自听著那从先前便打著朱雀大路的雨声。
雨是围住了罗生门,从远处洒洒的打将过来。黄昏使天空低下了;仰面一望,门顶在斜出的飞甍上,支住了昏沉的云物。
因为要将没法办的事来怎么办,便再没有工夫来拣手段了。一拣,便只是饿死在空地里或道旁;而且便只是搬到这门里来,弃掉了像一只狗。但不拣,则——家将的思想,在同一的路线上徘徊了许多回,才终于到了这处所。然而这一个“则”,虽然经过了许多时,结局总还是一个“则”。家将一面固然肯定了不拣手段这一节了,但对于因为要这“则”有著落,自然而然的接上来的“只能做强盗”这一节,却还没有足以积极的肯定的勇气。
家将打一个大喷嚏,于是懒懒的站了起来。晚凉的京都,已经是令人想要火炉一般寒冷。风和黄昏,毫无顾忌的吹进了门柱间。停在朱漆柱上的蟋蟀,早已跑到不知那里去了。
家将缩著颈子,高耸了衬著淡黄小衫的红青袄的肩头,向门的周围看。因为倘寻得一片地,可以没有风雨之患,没有露见之虑,能够安安稳稳的睡觉一夜的,便想在此度夜的了。这其间,幸而看见了一道通到门楼上的,宽阔的,也是朱漆的梯子。倘在这上面,即使有人,也不过全是死人罢了。家将便留心著横在腰间的素柄刀,免得他出了鞘,抬起登著草鞋的脚来,踏上这梯子的最下的第一级去。
于是是几分时以后的事了。在通到罗生门的楼上的,宽阔的梯子的中段,一个男子,猫似的缩了身体,屏了息,窥探著楼上的情形。从楼上漏下来的火光,微微的照著这男人的右颊,就是那短须十间生了一颗红肿化脓的面疱的颊。家将当初想,在上面的只不过是死人;但走上二三级,却看见有谁明著火,而那火又是这边那边的动弹。这只要看那昏浊的黄色的光,映在角角落落都结满了蛛网的藻井上摇动,也就可以明白了。在这阴雨的夜间,在这罗生门的楼上,能明著火的,总不是一个寻常的人。
家将是蜥蜴似的忍了足音,爬一般的才到了这峻急的梯子的最上的第一级。竭力的帖伏了身子,竭力的伸长了颈子,望到楼里面去。
待看时,楼里面便正如所闻,胡乱的抛著几个死尸,但是火光所到的范围,却此预想的尤其狭,辨不出那些的数目来。只在朦胧中,知道是有赤体的死尸和穿衣服的死尸;又自然是男的女的也都有。而且那些死尸,或者张著嘴或者伸著手,纵横在楼板上的情形,几乎令人要疑心到他也曾为人的事实。加之只是肩膀胸脯之类的高起的部分,受著淡淡的光,而低下的部分的影子却更加暗黑,哑似的永久的默著。
家将逢到这些死尸的腐烂的臭气,不由的掩了鼻子。然而那手,在其次的一刹那间,便忘却了掩住鼻子的事了。因为有一种强烈的感情,几乎全夺去了这人的嗅觉了。
那家将的眼睛,在这时候,才看见蹲在死尸中间的一个人。是穿一件桧皮色衣服的,又短又瘦的,白头发的,猴子似的老妪。这老妪,右手拿著点火的松明,注视著死尸之一的脸。从头发的长短看来,那死尸大概是女的。
家将被六分的恐怖和四分的好奇心所动了,几于暂时忘却了呼吸。倘借了旧记的记者的话来说,便是觉得“毛戴”起来了。随后那老妪,将松明插在楼板的缝中,向先前看定的死尸伸下手去,正如母猴给猴儿捉虱一般,一根一根的便拔那长头发。头发也似乎随手的拔了下来。
那头发一根一根的拔了下来时,家将的心里,恐怖也一点一点的消去了。而且同时,对于这老妪的憎恶,也渐渐的发动了。 ——不,说是“对于这老妪”,或者有些语病;倒不如说,对于一切恶的反感,一点一点的强盛起来了。这时候,倘有人向了这家将,提出这人先前在门下面所想的“饿死呢还是做强盗呢”这一个问题来,大约这家将是,便毫无留恋,拣了饿死的了。这人的恶恶之心,宛如那老妪插在楼板缝中的松明一般,蓬蓬勃勃的燃烧上来,已经到如此。
那老妪为什么拔死人的头发,在家将自然是不知道的。所以照“合理的”的说,是善是恶,也还没有知道应该属于那—面。但由家将看来,在这阴雨的夜间,在这罗生门的上面,拔取死人的头发,即此便已经是无可宽恕的恶。不消说,自己先前想做强盗的事,在家将自然也早经忘却了。
于是乎家将两脚一蹬,突然从梯子直蹿上去,而且手按素柄刀,大踏步走到老妪的面前。老妪的吃惊,是无须说得的。
老妪一瞥见家将,简直像被弩机弹著似的,直跳起来。
“呔,那里走!”
家将拦住了那老妪绊著死尸踉跄想走的逃路,这样骂。老妪冲开了家将,还想奔逃。家将却又不放伊走,重复推了回来了。暂时之间,默然的叉著。然而胜负之数,是早就知道了的。家将终于抓住了老妪的臂膊,硬将伊捻倒了。是只剩著皮骨,宛然鸡脚一般的臂膊。
“在做什么?说来!不说,便这样!”
家将放下老妪,忽然拔刀出了鞘,将雪白的钢色,塞在伊的眼前。但老妪不开口。两手发了抖,呼吸也艰难了,睁圆了两眼,眼珠几乎要飞出窠外来,哑似的执拗的不开口。一看这情状,家将才分明的意识到这老妪的生死,已经全属于自己的意志的支配。而且这意志,将先前那炽烈的憎恶之心,又早在什么时候冷却了。剩了下来的,只是成就了一件事业时候的,安稳的得意和满足。于是家将俯视著老妪,略略放软了声音说:
“我并不是检非违使[3]的衙门里的公吏,只是刚才走过这门下面的一个旅人。所以并不要锁你去有什么事。只要在这时候,在这门上,做著什么的事,说给我就是。”
老妪更张大了圆睁的眼睛,看住了家将的脸,这看的是红眼眶,鸷鸟一般锐利的眼睛。于是那打皱的,几乎和鼻子连成一气的嘴唇,嚼著什么似的动起来了。颈子很细,能看兄尖的喉节的动弹。这时从这喉咙里,发出鸦叫似的声音,喘吁吁的传到家将的耳朵里:
“拔了这头发呵,拔了这头发呵,去做假发的。”
家将一听得这老妪的答话是意外的平常,不觉失瞭望;而且一失望,那先前的憎恶和冷冷的侮蔑,便同时又进了心中了。他的气色,大约伊也悟得。老妪一手仍捏著从死尸拔下来的长头发,发出虾蟆叫一样声音,格格的,说了这些话:
“自然的,拔死人的头发,真不知道是怎样的恶事呵。只是,在这里的这些死人,都是,便给这么办,也是活该的人们。现在,我刚才,拔著那头发的女人,是将蛇切成四寸长,晒干了,说是干鱼,到带刀[4]的营里去出卖的。倘使没有遭瘟,现在怕还卖去罢。这人也是的,这女人去卖的干鱼,说是口味好,带刀们当作缺不得的菜料买。我呢,并不觉得这女人做的事是恶的。不做,便要饿死,没法子者做的罢。那就,我做的事,也不觉得是恶事。这也是,不做便要饿死,没法子才做的呵。很明白这没法子的事的这女人,料来也应该宽恕我的。”
老妪大概说了些这样意思的事。
家将收刀进了鞘,左手按著刀柄,冷然的听著这些话;至于右手,自然是按著那通红的在颊上化了脓的大颗的面疱。然而正听著,家将的心里却生出一种勇气来了。
这正是这人先前在门下面所缺的勇气。而且和先前跳到这门上,来捉老妪的勇气,又完全是向反对方面发动的勇气了。家将对于或饿死或做强盗的事,不但早无问题;从这时候的这人的心情说,所谓饿死之类的事,已经逐出在意识之外,几乎是不能想到的了。
“的确,这样么?”
老妪说完话,家将用了嘲弄似的声音,复核的说。于是前进一步,右手突然离开那面疱,捉住老妪的前胸,咬牙的说道:
“那么,我便是强剥,也未必怨恨罢。我也是不这么做,便要饿死的了。”
家将迅速的剥下这老妪的衣服来;而将挽住了他的脚的这老妪,猛烈的踢倒在死尸上。到楼梯口,不过是五步。家将挟著剥下来的桧皮色的衣服,一瞬间便下了峻急的梯子向昏夜里去了。
暂时气绝似的老妪,从死尸间挣起伊裸露的身子来,是相去不久的事。伊吐出唠叨似的呻吟似的声音,借了还在燃烧的火光,爬到楼梯口边去。而且从这里倒挂了短的白发,窥向门下面。那外边,只有黑洞洞的昏夜。
家将的踪迹,并没有知道的人。

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title: 罗生门
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ある日の暮方の事である。一人の下人げにんが、羅生門らしょうもんの下で雨やみを待っていた。
広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗にぬりの剥はげた、大きな円柱まるばしらに、蟋蟀きりぎりすが一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路すざくおおじにある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠いちめがさや揉烏帽子もみえぼしが、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。
何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風つじかぜとか火事とか饑饉とか云う災わざわいがつづいて起った。そこで洛中らくちゅうのさびれ方は一通りではない。旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹にがついたり、金銀の箔はくがついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪たきぎの料しろに売っていたと云う事である。洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸こりが棲すむ。盗人ぬすびとが棲む。とうとうしまいには、引取り手のない死人を、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来た。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、この門の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。
その代りまた鴉からすがどこからか、たくさん集って来た。昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾しびのまわりを啼きながら、飛びまわっている。ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻ごまをまいたようにはっきり見えた。鴉は、勿論、門の上にある死人の肉を、啄ついばみに来るのである。――もっとも今日は、刻限こくげんが遅いせいか、一羽も見えない。ただ、所々、崩れかかった、そうしてその崩れ目に長い草のはえた石段の上に、鴉の糞ふんが、点々と白くこびりついているのが見える。下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖あおの尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰にきびを気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。
作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。所がその主人からは、四五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微すいびしていた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。その上、今日の空模様も少からず、この平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した。申さるの刻こく下さがりからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。そこで、下人は、何をおいても差当り明日あすの暮しをどうにかしようとして――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。
雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍いらかの先に、重たくうす暗い雲を支えている。
どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑いとまはない。選んでいれば、築土ついじの下か、道ばたの土の上で、饑死うえじにをするばかりである。そうして、この門の上へ持って来て、犬のように棄てられてしまうばかりである。選ばないとすれば――下人の考えは、何度も同じ道を低徊ていかいした揚句あげくに、やっとこの局所へ逢着ほうちゃくした。しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。下人は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「盗人ぬすびとになるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
下人は、大きな嚔くさめをして、それから、大儀たいぎそうに立上った。夕冷えのする京都は、もう火桶ひおけが欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗にぬりの柱にとまっていた蟋蟀きりぎりすも、もうどこかへ行ってしまった。
下人は、頸くびをちぢめながら、山吹やまぶきの汗袗かざみに重ねた、紺の襖あおの肩を高くして門のまわりを見まわした。雨風の患うれえのない、人目にかかる惧おそれのない、一晩楽にねられそうな所があれば、そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。すると、幸い門の上の楼へ上る、幅の広い、これも丹を塗った梯子はしごが眼についた。上なら、人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。下人はそこで、腰にさげた聖柄ひじりづかの太刀たちが鞘走さやばしらないように気をつけながら、藁草履わらぞうりをはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。
それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子ようすを窺っていた。楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。短い鬚の中に、赤く膿うみを持った面皰にきびのある頬である。下人は、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと高を括くくっていた。それが、梯子を二三段上って見ると、上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい。これは、その濁った、黄いろい光が、隅々に蜘蛛くもの巣をかけた天井裏に、揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。
下人は、守宮やもりのように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。そうして体を出来るだけ、平たいらにしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗のぞいて見た。
見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死骸しがいが、無造作に棄ててあるが、火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の死骸と、着物を着た死骸とがあるという事である。勿論、中には女も男もまじっているらしい。そうして、その死骸は皆、それが、かつて、生きていた人間だと云う事実さえ疑われるほど、土を捏こねて造った人形のように、口を開あいたり手を延ばしたりして、ごろごろ床の上にころがっていた。しかも、肩とか胸とかの高くなっている部分に、ぼんやりした火の光をうけて、低くなっている部分の影を一層暗くしながら、永久に唖おしの如く黙っていた。
下人げにんは、それらの死骸の腐爛ふらんした臭気に思わず、鼻を掩おおった。しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を掩う事を忘れていた。ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまったからだ。
下人の眼は、その時、はじめてその死骸の中に蹲うずくまっている人間を見た。檜皮色ひわだいろの着物を着た、背の低い、痩やせた、白髪頭しらがあたまの、猿のような老婆である。その老婆は、右の手に火をともした松の木片きぎれを持って、その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。髪の毛の長い所を見ると、多分女の死骸であろう。
下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時ざんじは呼吸いきをするのさえ忘れていた。旧記の記者の語を借りれば、「頭身とうしんの毛も太る」ように感じたのである。すると老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、丁度、猿の親が猿の子の虱しらみをとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。髪は手に従って抜けるらしい。
その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。――いや、この老婆に対すると云っては、語弊ごへいがあるかも知れない。むしろ、あらゆる悪に対する反感が、一分毎に強さを増して来たのである。この時、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた、饑死うえじにをするか盗人ぬすびとになるかと云う問題を、改めて持出したら、恐らく下人は、何の未練もなく、饑死を選んだ事であろう。それほど、この男の悪を憎む心は、老婆の床に挿した松の木片きぎれのように、勢いよく燃え上り出していたのである。
下人には、勿論、何故老婆が死人の髪の毛を抜くかわからなかった。従って、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった。しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くと云う事が、それだけで既に許すべからざる悪であった。勿論、下人は、さっきまで自分が、盗人になる気でいた事なぞは、とうに忘れていたのである。
そこで、下人は、両足に力を入れて、いきなり、梯子から上へ飛び上った。そうして聖柄ひじりづかの太刀に手をかけながら、大股に老婆の前へ歩みよった。老婆が驚いたのは云うまでもない。
老婆は、一目下人を見ると、まるで弩いしゆみにでも弾はじかれたように、飛び上った。
「おのれ、どこへ行く。」
下人は、老婆が死骸につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行手を塞ふさいで、こう罵ののしった。老婆は、それでも下人をつきのけて行こうとする。下人はまた、それを行かすまいとして、押しもどす。二人は死骸の中で、しばらく、無言のまま、つかみ合った。しかし勝敗は、はじめからわかっている。下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへ※(「てへん丑」、第4水準2-12-93)ねじ倒した。丁度、鶏にわとりの脚のような、骨と皮ばかりの腕である。
「何をしていた。云え。云わぬと、これだぞよ。」
下人は、老婆をつき放すと、いきなり、太刀の鞘さやを払って、白い鋼はがねの色をその眼の前へつきつけた。けれども、老婆は黙っている。両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球めだまが※(「目匡」、第3水準1-88-81)まぶたの外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗しゅうねく黙っている。これを見ると、下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。後あとに残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。そこで、下人は、老婆を見下しながら、少し声を柔らげてこう云った。
「己おれは検非違使けびいしの庁の役人などではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄なわをかけて、どうしようと云うような事はない。ただ、今時分この門の上で、何をして居たのだか、それを己に話しさえすればいいのだ。」
すると、老婆は、見開いていた眼を、一層大きくして、じっとその下人の顔を見守った。※(「目匡」、第3水準1-88-81)まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い眼で見たのである。それから、皺で、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でも噛んでいるように動かした。細い喉で、尖った喉仏のどぼとけの動いているのが見える。その時、その喉から、鴉からすの啼くような声が、喘あえぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。
「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、鬘かずらにしようと思うたのじゃ。」
下人は、老婆の答が存外、平凡なのに失望した。そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑ぶべつと一しょに、心の中へはいって来た。すると、その気色けしきが、先方へも通じたのであろう。老婆は、片手に、まだ死骸の頭から奪った長い抜け毛を持ったなり、蟇ひきのつぶやくような声で、口ごもりながら、こんな事を云った。
「成程な、死人しびとの髪の毛を抜くと云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。じゃが、ここにいる死人どもは、皆、そのくらいな事を、されてもいい人間ばかりだぞよ。現在、わしが今、髪を抜いた女などはな、蛇を四寸しすんばかりずつに切って干したのを、干魚ほしうおだと云うて、太刀帯たてわきの陣へ売りに往いんだわ。疫病えやみにかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいた事であろ。それもよ、この女の売る干魚は、味がよいと云うて、太刀帯どもが、欠かさず菜料さいりように買っていたそうな。わしは、この女のした事が悪いとは思うていぬ。せねば、饑死をするのじゃて、仕方がなくした事であろ。されば、今また、わしのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ。これとてもやはりせねば、饑死をするじゃて、仕方がなくする事じゃわいの。じゃて、その仕方がない事を、よく知っていたこの女は、大方わしのする事も大目に見てくれるであろ。」
老婆は、大体こんな意味の事を云った。
下人は、太刀を鞘さやにおさめて、その太刀の柄つかを左の手でおさえながら、冷然として、この話を聞いていた。勿論、右の手では、赤く頬に膿を持った大きな面皰にきびを気にしながら、聞いているのである。しかし、これを聞いている中に、下人の心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。下人は、饑死をするか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。その時のこの男の心もちから云えば、饑死などと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。
「きっと、そうか。」
老婆の話が完おわると、下人は嘲あざけるような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を面皰にきびから離して、老婆の襟上えりがみをつかみながら、噛みつくようにこう云った。
「では、己おれが引剥ひはぎをしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」
下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎとった檜皮色ひわだいろの着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。
しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくの事である。老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪しらがを倒さかさまにして、門の下を覗きこんだ。外には、ただ、黒洞々こくとうとうたる夜があるばかりである。
下人の行方ゆくえは、誰も知らない。

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// Returns first 50 chars with proper truncation
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export async function generateRSS({ lang }: GenerateRSSOptions = {}) {
// Get posts for specific language (including universal posts)
// Get posts for specific language (including universal posts and default language when lang is undefined)
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@ -44,9 +43,9 @@ export async function generateRSS({ lang }: GenerateRSSOptions = {}) {
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